EMS双眼望遠鏡 FC−76への換装


松本工房オリジナルのSCHWARZ120F8.3 EMSbinoの架台にFC−76を搭載してみました。
17年前に購入したFC−76ですがここ2,3年は殆ど使用することなく眠ったままでした。懐かしい思い出多きこの鏡筒を何とか有効に使いたいと思っていた矢先、縁あってもう1本入手することが出来、今回双眼に仕立ててみました。架台とEMSはそのまま流用です。両鏡筒ともレンズは経年でコーティングの曇りが発生していたため、再研磨とコーティングを施してあります。


FC-76bino1 FC-76bino2


EMSを接続するためには、接眼部の2インチ化と鏡筒の短縮(バックフォーカス確保)がこの鏡筒の場合は必須となりますが、どちらも素人の粗末な工具では加工は無理なので、ツァイスSW30の改造に時に続いて今回も松本龍郎さんに「おんぶに抱っこ」でお願いしました(^^)

松本さんにお願いした加工
@オリジナル接眼部のリングを加工して2インチスリーブ化する
A鏡筒を60mm切断 (ドローユニットとの接続は外ネジ加工)

松本工房に鏡筒が到着してから、「完了した」とのメールが届くまで恐ろしく早い! 勿論加工が終えて戻ってきた鏡筒の仕上げは申し分なく、EMSと大型アイピースを取り付けても極めて堅牢に固定される2インチ仕様。これだけの加工を、あの短い時間で・・うーむ凄い

搭載するに当たり自分で施した加工
@鏡筒バンドと架台を接続する金物の製作
 加工屋さんに依頼済みでしたが、バックオーダで混んでいるとのことで、とりあえず
 手持ちのアルミ材を加工して製作、正規の加工品が納品次第交換の予定
A鏡筒バンドの固定ネジ側飛び出し部分の切断短縮及びM4×2本のタップ加工
 (左右鏡筒バンドの干渉回避)
B鏡筒換装に伴う重心点移動に合わせたセンターロッドの取り付け位置変更
 (センター20mm角ロッドにM6深さ12mmタップ加工)
 バランスシャフトは後日アルミ製に変更し重心を再調整する予定

加工と組み立てを合わせて丸1日の作業でした。(最近こまごまとした加工が多いのでタップも大分旨くなりました。以前のようにネジが曲がっている、などということも皆無です^^)
鏡筒バンドはヒンジ側を耳軸方向としています。当初はこの逆とする予定でしたが、この方が架台を加工せずに鏡筒を取り付けられることと眼幅を大きく確保できることから採用しました。ただし鏡筒バンドが低い位置だと耳軸取り付け板とヒンジが干渉するため、鏡筒下部接続金物の高さを当初予定していた10mmから15mmに変更してこれを回避しています。仰角が大きくなった時のHF経緯台の耳軸締め付けノブと鏡筒バンドのヒンジとの干渉やバンド開閉も問題ありませんでした。しかし本来ならEMS第一第二ユニット間のスリーブ長を再調整し、左右鏡筒スパンを出来る限り小さく、かつ鏡筒と架台を可能な限り接近させて仰角が大きくなった時の手前方向へのモーメントを低減するという配慮をすることが当然必要ですが、既存の架台を使って搭載するためには実害の無い範囲での臨機応変さが必要なのはやむを得ないことと思います。

組み上げは、鏡筒左右上下の平行度をおおざっぱに合わせて仮止めしてから実視を交えながら調整の追い込みをしました。EMS自体の微調整は完了していましたので、実視では右側EMSの光軸調整機構で「無理の無い可変範囲に収まっている」かどうかの確認が主でしたが、最初は視野中心で光軸があっても、周辺で大きく傾きが出ていることが判り、2度ほど再調整をして完了しました。左右上下の平行度に要求される数値精度は判りませんが、感覚的には鏡筒両端にて物差しで計れる程度の平行精度が出ていれば十分だと考えております。

ファーストライト
Or4mm150倍にて折りしも最接近中の火星を観望、模様は黄雲のためかはっきりしませんが、小さくなってきている極冠がとてもキリッとしていて印象的でした。やはり両目で観るというのは楽ですね・・ずっと観ていても全く疲れない。勿論色収差は皆無でピントの山はしっかりと手ごたえがあります。さすがはフローライトです。
DeepSkyはSW30にてチェック、アポクロマートですのでシャープなのは当然ですが、恒星像のピントの中心では奥の奥の微小点に突き刺さるような・・吸い込まれるような深さを感じます。当日は月明かりとうす雲があったため、見えがあまりよくありませんでしたが、透明度のよい最良のコンディションでは信じられないくらいの微恒星で埋め尽くされることでしょう。メンテナンスの際のEMSアライメント調整は今まで以上に完璧に行う必要性をとひしひしと感じます(周辺像でもごまかしは全く通用しない、それがフローライト双眼の世界と感じます)
小雨の昼間の景色も観望してみましたが、電線に着いている雨の雫はそこに写る周辺の風景まで見えそうなほどの解像力、木々の葉の質感まで伝わります。初めてEMSbinoを覗いた時と同じ新鮮な感動でした。(私の場合、星の分解能云々よりも昼間の風景を観たときのテイストを非常に重んじ、それに大きな感銘を受ける鏡筒は星(特に主用途であるdeep sky)も抜群、というのが持論)


FC−76は私が天体観望を初めて間もない頃購入した思い出の品であり、当時予想すらしなかった双眼として今また活躍の場が得られたことは非常に感慨深いものです。EMSと出逢わなければこのような素晴らしいチャンスは決して訪れることはなかったでしょう。

SCHWARZとの比較
今回この鏡筒を双眼で使ってみて、改めてSCHWARZ120mmF8.3の凄さにも驚いています。フローライト対アクロマートですからどだい分が悪い勝負であることはわかっているつもりで、かつそのハンディを無視しても中倍率までのシャープネス、コントラストは比肩すると言っても過言ではないほどSCHWARZのそれは素晴らしく、やはりただ物ではないことを実感します。宿命と言える高倍率での色収差について重箱の隅をつつかない限りSCHWARZは類希な名鏡として期待に答えてくれる、これは間違いのない事実だと思います。

今後
暫くはFC−76仕様でこのまま使いますが、必要に応じSCHWARZと換装をするか(30分程度で完了)あるいは別の架台を製作して棲み分けで使えるようにするか・・ じっくり考えたいと思います。いずれにしろ1つのプラットホームで複数の鏡筒が搭載出来る、松本工房製EMS双眼望遠鏡ならではの楽しみだと思います。


オマケ(旋盤無しで切断面を綺麗にする方法)

アルミの円筒または円柱を切断加工する際に、切断面の仕上げをどうするか・・旋盤無しで奇麗に仕上げる方法、試行錯誤の末私は以下のようにしています。(背丈の低い円盤状の素材の場合に特に有効)

@まず手鋸でケガキ位置の僅か手前で切断します。(当然切断面はギザギザ)
A次に平らなコンクリート面で持つ方向を定期的に変えながら切断面をコンクリートで削ります(鏡を磨く感じで)
B所定のところ(ケガキ線の位置)まで切削したら、今度は紙ヤスリを平板に置いて番手を変えながら(例#100、200、400、800)コンクリー トの上でした粗擦りと同じように削る
C#800〜1200くらいの紙ヤスリで一定方向に摺ってヘアライン状の仕上げを施す

慣れれば旋盤加工と見間違えるほどに非常に美しい良い仕上げとなります。 今回の鏡筒バンド固定ネジ飛び出し部分の切断後の仕上げもこの方法で行いました。また2インチ→1.5インチアダプタの長さ調整にも用いました。 宜しければお試し下さい


2003.09